息子のパニック発作を父親は理解してくれなかった

ビジネスマン

 

24歳の会社員の哲郎さんがはじめてパニック発作を起こしたのは、大学3年の狄でした。

 

そのころ、哲郎さんの家では、高校生の妹が難病のため、手術の準備を進めていました。一家が緊張の中にあり、哲郎さんも妹の病状を非常に心配していました。

 

手術の当日、両親や弟といっしょに待合室で待機しているとき、哲郎さんは急に息が苦しくなりました。めまいや吐き気におそわれ、心臓がバクバクして口から飛び出しそうでした。

 

青ざめ、汗をびっしょりかいて突っ伏してしまった哲郎さんに、家族は驚きましたが、発作は20分もするとおさまりました。「手術結果を待つ緊張感のためだろう」と、家族も哲郎さんも、そう思いました。

 

 

しかし、発作は、その後も続きました。哲郎さんは、発作のことを家族にいえないまま、一人で耐えていました。

 

ある休みの日、また発作が起こりそうな予感(予期不安)おそわれ、哲郎さんはベッドで横になっていました。そこへ父親が入ってきました。

 

「休みだからって、寝てばかりいてはダメだ」という父親に、哲郎さんはようやく、あれからも同じような症状があって具合が悪いと告げました。

 

しかし父親は、「何を寝とぼけたことをいってるんだ」と、まったく取り合ってくれませんでした。

 

このままでは家族にも誤解されるだけだ、と思った哲郎さんは、近くの心療内科を受診しました。パニック障害と診断され、抗うつ薬と抗不安薬の治療をはじめました。

 

【スポンサードリンク】

 

脳の病気という医師の説明が救いになる

薬を飲んでも、哲郎さんの発作はなかなかおさまりませんでした。様子を見かねた母親が、哲郎さんに、別の病院の精神科を受診することをすすめました。

 

新しい医師との最初の面談で、哲郎さんは自分の病気について、自問自答していた思いを語りました。

 

「やはり、性格や精神力が弱くてパニック障害になったのでしょうか。もっと強くなるように精神力を鍛えないといけないのでしょうか」

 

付き添ってきた母親は、かたわらでうなずいていました。それは夫(父親)がいつも言っていることで、母親自身の考えでもありました。

 

医師には、パニック障害対する家族の偏見が、「弱さ」を責める雰囲気を生み、哲郎さんは自信を失っているように見えました。こういったプレッシャーがあるため、パニック発作や予期不安がつづいていると感じたのです。

 

そこで医師は、次のようなことを説明しました。

  • パニック障害は、決して性格や精神力の問題ではないこと。
  • 発作は、敏感になっている脳が、ささいな刺激に反応して起こること。
  • 必要なのは、脳の敏感さをやわらげる薬物治療であること。
  • ストレスやプレッシャーがあると、治療効果が上がらないこと。

以上のことを家族はぜひ理解してほしいと医師は説得しました。

 

弱いといわれつづけ落ち込んでいた。哲郎さんにとって、医師の言葉は救いでした。抗うつ薬が増量されたおかげもあり、発作はまもなく起こらなくなりました。発作がないときにも悩まされていた息苦しい感じも、もうありません。

 

いま、哲郎さんは大学を卒業して会社勤めをしています。仕事に追われて、あまり眠れない日がつづいたときに1度発作を起こしましたが、反省して、その後はどんなに忙しくても6〜7時間は眠るようにしました。

 

薬も、もう飲まなくてよくなっています。「また脳が誤作動を起こすかもしれないけれど、そのときはそのとき。何とかなるさ」と考えられるようになり、自分でも回復してきていると実感しています。

 

 

アドバイス:緊張した家族関係を第三者の意見で改善する

パニック発作には、薬がよく効きます。薬は、脳の神経伝達物質のアンバランスを調整して、発作の原因になる神経回路の誤作動を起こさないようにします。

 

薬が効くということは、脳の病気であることを示しているのですが、一般的にはなかなか理解されないようです。

 

中でも父親は、心の病気に対して「気合いで乗りきれ」といった根性論をとなえる場合がよく見られます。そういった姿勢に対して、患者さんは失望し、家族との間に壁が生まれたり、あるいはこのケースの哲郎さんのように、ますます自分を責めるようになります。

 

 

緊張した家族関係は、パニック障害の経過に決してプラスになりません。病気で苦しい上に、親とも立ち向かわなければならないとなると、患者さんは精神の安定が得られなくなります。

 

このような家族関係をよい方向へ向けるために、第三者の意見を聞くのはよいことです。客観的な視点から見ることができるからです。医師であれば医学的な説明ができますし、それは患者さんや家族への心理教育にもなります。

 

また、カウンセラー(心理療法士)と話をすることも、患者さんの意識を前向きにしてくれます。

 

パニック障害の患者さんは自分への評価が低く、将来に不安を持っていますが、自分で何とか処理しようとします。それができなくなったとき、パニック発作が起こりがちです。また。哲郎さんにも見られるように、患者さんは孤立している場合が多いのです。カウンセラーとの「会話」は、孤立しがちな意識をかえるのに役立つでしょう。

 

 

パニック障害は、完治までに長い時間がかかる場合が多いのですが、哲郎さんは薬物療法が効いて、いまでは会社勤めをしています。

 

哲郎さんは、広塲恐怖症うつ病を併発していなかったことも幸いしました。これらの病気をともなうと、パニック障害の経過はどうしても長くなるのです。

 

後日談ですが、現在の哲郎さんに元気をあたえているのが妹さんの存在です。妹さんは、手術が成功して、病状がよくなっているのです。哲郎さんはいまでも家族とは距離を置いていますが、唯一、妹さんとは気持ちが通い合うようです。


【スポンサードリンク】