疲労感に悩まされ、しだいに広場恐怖症があらわれてきました

悩むOL

 

1年前に最初のパニック発作が起こってから、33歳の会社員の千保子さんは、しだいに軽い耳鳴りに悩まされるようになりました。また、非常に疲れやすくなり、休みの日は1日中横になって過ごすような状態でした。

 

それでも、発作によって死の恐怖や不安にさらされることは少なくなっていましたので、何とか我慢をしていました。

 

病院の心療内科には、パニック障害を発症してすぐ通いはじめ、薬も飲んでいました。しかし、症状はいっこうに改善しませんでした。それどころか、だんだん悪くなっているような感じでした。

 

千保子さんは、最初の発作が都心の繁華街で起こったこともあって、人込みが歩けなくなっていました。それどころか、電車や地下鉄にも一人では乗れなくなったのです。付き添ってくれる人がいても、長い間乗っていることが出来ず、たびたび途中下車をしました。

 

頑張ろうとすればするほど、気持ちは落ち込んでいきました。出勤もままならない状態になったため、医師のすすめもあって、休職することになりました。

 

しかし、千保子さんには、家で休んでいれば病気がよくなるとはとても思えませんでした。認知行動療法をやってみたいと思いましたが、通っていた病院には、指導する専門家がいないようでした。

 

そこで、インターネットや患者会などから情報を集め、カウンセリングや行動療法に定評のあるクリニックを受診することにしました。

 

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臨床心理士との面談で前向きな気持ちになる

クリニックは、地ド鉄を降りてすぐのビルの4階にありました。しかし千保子さんは、地下鉄に乗れなかったため、付き添いの人と一緒ににタクシーで行きました。

 

エレベーターにも乗ることができず、4階の診察室までは、ゆっくり階段をのぼっていきました。

 

医師から診察を受けたあと、ようやく臨床心理士との、面談になった千保子さんは、すでに疲労困ぱいしていて、カウンセリングルームのイスにも、付き添いの人の手を借りてやっとすわるような状態でした。

 

臨床心理士は、千保子さんの生活や考え方、仕事や趣味、興味があることなど、さまざまな角度から話を聞いていきました。

 

千保子さんは病気のためもあってか、身なりもあまりかまわないようでしたが、内面には美しいものへのあこがれがあり、感覚的にすぐれたものを持っていると臨床心理士は感じました。

 

うつむきがちで、しきりと「こんな私ですから」といいますが、まったくの自信喪失というより、心の底には「治りたい」という思いがあることもわかりました。

 

こういったとき、臨床心理士は、患者さんが失いかけている自信を取り戻すため、その人の長所を伝えるようにします。千保子さんの場合は、感受性の豊かさや、頭のよさなどでした。

 

千保子さんはしだいに顔を上げて、臨床心理士の顏を見て話すようになりました。帰りには、エレベーターに乗ることかできました。

 

しかし、千保子さんが行動療法に取り組むためには、まだ体力的に不安がありました。そこで、それまで漫然と飲んでいた薬の処方を見直し、SSRIできちんと治療することにしました。

 

朝の散歩も欠かさず行うようにしました。そうして体力をつけた上で、自己行動療法に取り組みました。抗不安薬が、行動を助けてくれました。

 

千保子さんの行動範囲は広がっていきました。何より大きかったのは、一人で電車に乗れるようになったことです。

 

4カ月後、千保子さんは職場に復帰することができました。午後からの半日勤務ですが、付き添いなしで通勤できるようになりました。

 

 

アドバイス:行動療法で広場恐怖症を克服するポイント

パニック障害の慢性期で、もっともやっかいなのが、疲労です。これには乳酸が関係するといわれます。

 

乳酸は強い運動をしたときに筋肉にたまる疲労物質ですが、逆に、運動が不足してもたまります。パニック障害の人は、この乳酸の代謝が悪く、外に排出されるまでに時間がかかります。そのため疲れやすくなり、疲れるのでますます運動をしなくなる、といった悪循環をまねきます。

 

中でも広場恐怖症の人は、行動範囲が狭くなって、運動量が減っているため、疲労がたまりやすくなっています。ですから、このケースの千保子さんが、毎日散歩をするようにしたのは大変に有効でした。

 

散歩のような軽い有酸素運動は、乳酸をエネルギーとして使うので、乳酸の代謝がよくなります。疲れにくくなり、体力もつきますので、行動療法に取り組みやすくなるのです。

 

行動療法には、薬も大切です。SSRIのような抗うつ薬には、パニック発作を抑える作用があるため、行動にともなう恐怖心が薄らぎます。また、抑うつ感を軽減する働きがあり、恐怖に立ち向かっていく前向きな心を養いますので、行動が促されるのです。

 

もう一つの薬、抗不安薬(頓服用)には不安をやわらげる働きがありますので、行動する前に飲んでおくと、チャレンジしやすくなります。効果の高い頓服藥はロラゼバム(商品名:ワイパックス)1mg錠です。これを舌下で服用すると、3分程度で効果があらわれます。

 

恐怖を感じる場面でも、この頓服薬を使ってチャレンジすることが大切です。最終的には、頓服薬なしで行動できるようにします。

 

行動療法(曝露療法)は、不安や恐怖を感じる場面に身をさらし、だんだん慣らしていく方法で、はじめは医師や臨床心理士のような専門家の指導のもとで行います。

 

ただし、千保子さんのようにSSRIで発作が消えている人は、一人で行う「自己行動療法」に取り組んでみるとよいでしょう。広場恐怖症の克服には、こういった積極性が重要です。

 

ただし、自己行動療法では広場恐怖症を克服できない患者さんが一部にいます。ものごとを「重大に、悲観的に」考える傾向が強く、どうしてもその思考パターンから抜け出せないのです。患者さんの中の約20〜40%がこのような人で、この場合は、薬物療法とあわせ、認知行動療法の専門的なカウンセリングを受けることがすすめられます。


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