電車に乗れなくなり会社を退職することに…

プログラマーの男性

 

40歳になる自営業の浩介さんが8年間勤めた会社尾を辞めたのは10年前の30歳のときでした。広場恐怖症のためでした、電車にすら乗れなくなってしまったのです。

 

いま思えば、選択肢としては、辞めることだけでなく、認知行動療法などで症状を改善する方法もあったのですが、そのときは追いつめられたような心境でした。

 

パニック障害という、聞いたこともない名前の病気になったことに対するショックもありました。当時は、この病気について知っている人は、まわりにはいませんでした。さらには、発作のたびにおそわれる死の恐怖。そういったことに打ちのめされすっかり自信をなくしてしまったのです。

 

しばらくは休職扱いで、健康保険から出る傷病手当金と貯金で生活しましたが、「もう、戻ることはできない」という思いが強く、結局、退職してしまいました。

 

しかし、無収人でいるわけにはいきません。電車に乗らないで、歩いて出勤できる会社を探しましたが、簡単には見つかりませんでした。浩介さんは、しだいに、自分には何ができるのか、何をしたいのかと考えるようになりました。

 

心も体も無視して働きつづけたからパニック障害になった、という思いもありました。

 

自分にはパニック障害というハンディがある。しかしこの病気は、これまでとは違う生き方をするためのバネにもなる。そう考えたとき、浩介さんはフリーランスで仕事をする決心がつきました。

 

どこかに所属せずフリーで働くことは、学生時代の秘かな夢でもあったのです。

 

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働き方をかえられずパニック発作が再発する

洋介さんが新しい仕事として選んだのは、システムエンジニアでした。パソコンは会社員時代から扱っていましたし、システム関連の情報も持っていました。何より、自宅でできるため。電車に乗らずにすみます。

 

仕事は思っていた以上に、順調で注文がとぎれることはありませんでした。しかし、自宅が仕事場になることで、浩介さんの生活は歯止めがきかなくなりました。

 

会社勤めのような、平日と休日の区別がなく、勤務時間の決まりもありません。365日、24時間、いつでもパソコンで仕事ができる状態になっていたのです。

 

もともと浩介さんは、仕事をはじめるとブレーキがきかず、とことん頑張るタイプでした。そういった仕事の仕方が、パニック障害をまねいたにもかかわらず、会社員時代よりさらにハードに働くようになってしまったのです。

 

フリーになって8年目でした。浩介さんは、再びパニック発作におそわれました。薬は発病の当初、1年ほど飲んだだけで、その後は飲んでいませんでした。

 

いったん、おさまって、治ったと思っていたパニック障害が再発してしまった。この衝撃は、最初にパニック発作が起こったときの比ではありませんでした。どん底よりも、きらに深い底があるのを見た思いでした。

 

もう二度とこのようなことを起こさないために、浩介さんは、再び薬物療法をはじめました。ただし、薬だけでは治らないことも感じていたので、病院で認知行動療法や自律訓練法にも取り組みました。食生活をかえ、睡眠を十分とるために、仕事もセーブしました。

 

浩介さんは、このごろつくづく思います、あのまま働きつづけていたら、もっと重篤な病気で倒れていたかもしれない。パニック発作は、自分がまちがっていることを知らせるために起きたのだと。

 

 

アドバイス:薬は症状の改善だけでなく再発しにくい体質をつくります

パニック障害は、頑固な慢性病です。きちんと薬を飲み、症状がなくなってよくなったと安心していた矢先に、突然パニック発作があらわれることも少なくありません。完治がむずかしい病気なのです。

 

薬については、このところ、長く飲みつづけることの是非が問われています。

 

インターネットなどでも、「薬はこわい」「副作用でかえって悪化する」といった意見がありますが、患者さんは、そうした意見に左右されることなく、医師の指示を守って服用することが大切です。

 

パニック障害には、いまのところ根治療法がありません。第一選択薬である抗うつ薬のSSRIも、症状をやわらげる対症療法のための薬です。

 

しかし、薬によってパニック発作を抑えることで、過敏になっている神経の興奮をしずめることができます。薬を飲んでこの鎮静状態をつづけることで、簡単には興奮しない体質にかえていくことが期待できます。

 

パニック障害にとって、薬は単なる対症療法ではないのです。

 

興奮しづらい体質をつくるためには、なるべく早期に、徹底して薬を飲んだほうがよいとされます。飲む期間は、患者さんの状態によっても異なりますが、維持療法や減薬の期間もあわせ、少なくとも3〜5年は必要です。

 

このケースの浩介さんは、薬をやめるのが早すぎました。途中で服薬を中断すると、再発しやすくなるのです。

 

さらに、改めて服薬を再開してもそれまでの薬の量では病気をコントロールしにくいということも知っておく必要があります。

 

もう一つ、再発を防ぐためには、薬だけでなく、生活面での改善も重要です。パニック障害は再発しやすい病気ですが、すべての患者さんが再発するわけではありません。

 

再発する人には、それなりの傾向があります。たとえぱ、睡眠不足や過労がつづくと再発しやすくなります。自己管理を怠りがちな人は、それだけ大きなリスクを負っていると考え、生活改善を心がける必要があります。

 

浩介さんの再発には、何よりも働き方の問題が大きくかかわっていましたが、働き方だけでなく、食生活にも目を向けて生活全体をかえようとしたのは大変よいことでした。


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