高速道路を運転中に発作が出て仕事にも集中できなくなる

うつ病の男性

 

そのときの発作のことは、27歳の会社員の義雄さん自身、忘れかけていました。

 

5年前の夏の事です。義雄さんは地下鉄の中で、突然わけもなく不安になり、心臓がドキドキして足がふるえ出しました。ただし、それはがまんできる程度のもので、目的の駅に着くころにはおさまったのです。

 

しかし、3カ月前の発作は忘れようにも忘れられません。いまも不安感と恐怖感をひきずっています。

 

義雄さんは、仕事先から会杜へ、戻るため、車を運転して高速道路に入ったところでした。車のスピードがいつもより速いような気がして、急に恐怖感がわきました。メータ-を見ると、60キロそこそこしか出ていません。呼吸がうまく出来ず、めまいがします。アクセルを踏もうとしても、下半身がマヒしたようになっていて、足に力が入りません。

 

やっとの思いでインターチェンジを出た義雄さんは、会社に電話をして迎えにきてもらいました。その日から発作は数日おきに起こりました。発作がないときも、何ともいえない不快な不安感や緊張感があって、気持ちが滅入ります。

 

 

義雄さんは車の運転が出来なくなったため、外回りから内勤へと職場をかえてもらいましたが、頭が働かず、いっこうに仕事がはかどりません。疲労感ばかりがたまっていきます。義雄さんを見かねた上司は、会社が提携する病院の受診をすすめました。

 

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単なるうつ病ではなくパニック障害との併発でした

その提携病院で、義雄さんはうつ病と診断され、6カ月休職して自宅で療養することになりました。処方された薬を飲むと、少し楽になりましたが、不安感は消えません。発作も、週1回ほど起こっていました。

 

ある日の夕方、帰宅した姉が、横になって涙を流している義雄さんに気づきました。義雄さんは、もともとはサッカー好きで陽気な青年でした。彼が泣いているところなど、子供のとき以求、目にしたことがなかった姉は驚きました。

 

姉は急いで別の病院を探し、義雄さんを連れていきました。新しい医師の問診では、義雄さんの過去の病状が見直されました。医師によると、5年前の発作は前駆症状の可能性があるが、このとき発症した可能性もあり、潜伏期間を経て、いまあらわれたと考えられるということでした。

 

診断名は、「広場恐怖症をともなうパニック障害とうつ病の併発」でした。

 

薬は、義雄さんの病状にあわせ、作用時間の長いベンゾジアゼピン系抗不安薬(フルトプラゼパム)と、三環系抗うつ薬(イミプラミン)が処方されました。

 

数日もたつと、義雄さんの不安感は霧がはれるようになくなりました。ただ、眠気が強くなり、1日中うとうとしましたが、これは併発しているうつ病のためでした。エネルギーを充電する必要があったのです。

 

治療のおかげで、発作も起こらなくなり、義雄さんは前向きな気持ちになりました。近所なら外出もできるようになりました。ただ、車の運転をしたり電車に乗ることは出来ませんでした。

 

そこで、行動療法をはじめることにしました。臨床心理士は、義雄さんの不安を分析し、強い乗り物恐怖にあわせた治療プログラムをつくりました。恐怖をいだく場面を、電車やバスなどの乗り物を中心に設定して、少しずつ体験して慣れていくようにしました。

 

義雄さんは、いくつかの段階を体験するうち、電車に乗れるようになっただけでなく、同僚といっしょだったら高速道路を運転できるようになりました。半年の休職期間が終わるころには、職場に復帰できるまでに回復しました。

 

 

アドバイス:通常のうつ病とは、治療も対処の仕方も異なります

日本のうつ病人口は、年々ふえつづけています。これは大きな社会問題で、特に企業にとっては生産性に影響しますので、社員のメンタルヘルス(心の健康管理)対策は、うつ病を中心に行われているようです。

 

しかし、うつ病ばかりに目が向けられると、このケースの義雄さんのように、パニック障害とうつ病が重なっていても、パニック障害の部分が見落とされることがあるのです。 実際、パニック障害は、しばしばうつ病と診断され、うつ病の一部として治療覆されます。

 

しかし、それでは、回復はむずかしくなります。パニック障害に併発するうつ病は「パニック性不安うつ病」といわれ、通常のうつ病とはタイプが異なり、治療法も対処の仕方も違うからです。薬物療法一つとっても、同じように抗うつ薬や抗不安薬を使いますが、処方は違ってきます。

 

 

また、精神療法でも、パニック性不安うつ病特有の心の動きについて理解がないと、カウンセリングなどはうまくいきません。たとえば、このケースの義雄さんにもあらわれていますが、「不安・抑うつ発作」という症状があります。

 

通常のうつ病では、ゆううつ感は朝に強く、夕方になるとやわらいできます。一方、パニック性不安うつ病では、反対に、夕方から夜にかけて、不安・抑うつ発作という形であらわれます。不意に何の理由もなく、それも本人の意思と関係なくあらわれるところは、パニック発作とよく似ています。

 

不安・抑うつ発作が起こると、本人は突然スイッチが入ったようになり、それまでの精神状態から別の精神状態に移ります。この発作の特徴的な身体症状としては、わけもなく涙がぼろぼろと出る「落涙」があります。

 

 

また、精神症状としては、抑うつ感、自己嫌悪、空虚感、無力感、絶望感といった「激しいマイナス感情」が、患者さんの中でわき起こります。この発作が起こると、患者さんはその苦しみをまぎらすために、過剰な喫煙、過食、器物の破壊といった行動をとることがあります。自傷行為も、この発作のときに起こすことが多いのです(「パニック障害の自傷行為への理解と対処方法」参照)。

 

パニック性不安うつ病は、ときにこのような激しい情動の動きが前面にあらわれる病気です。対処の仕方も、通常のうつ病とはまったく異なることを、家族など周囲の人も理解しておく必要があります。


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