救急病院での診断は「過換気症候群」でした

息苦しい女性

 

25歳の主婦の典子さんは新宿にいました。今から3年程まえのことです。

 

デパートに行こうと、妹といっしょに横断歩道で信号待ちをしていると、突然グラッとめまいがし、心臓が締めつけられるようになりました。呼吸が苦しく、必死に息を吸い込もうとするのですが、うまくできません。

 

さらに、何ともいえない不安感や恐怖感がわき、ハァハァといいながら、胸をおさえてうずくまってしまいました。そんな姉の姿に驚いた妹は、救急車を呼びました。典子さんは、しばらく気を失っていたようです。気がつくと、救急車の中にいました。

 

病院で医師の診察を受けるころには、息もできないような苦しさは消えていました。いくつかの検査を受けましたが、心電図、血圧、血液、尿など、いずれも異常なしでした。

 

そのときの医師の、「体の病気は見つからない」「急に呼吸が苦しくなっているので、過換気症候群が考えられる」という説明で、知りたかった病名がわかり、典子さんはとりあえずホッとしたのでした。

 

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パニック障害とわかり治療をすすめる

自宅に戻った典子さんは、本やインターネットで過換気症候群について調べてみました。症状の様子から、自分にあてはまると思いいました。

 

ただ、気になることもありました。過換気症候群は精神的なストレスや過労、睡眠不足で起こりやすく、治療の方法は特にないようなのです。

 

救急病院でも、医師から同じことをいわれました。そのためスタッフは、次に発作が起こったときの対処法として、「腹式呼吸」を教えてくれました(なお、紙袋による再呼吸法は危険なので行わないようにしましょう)。

 

過換気症候群は病気ではないのだろうか。治す方法はないのだろうか。不安や疑問でいっぱいになっている矢先に、次の発作が起こり、さらにその後は起こる間隔がどんどん短くなっていきました。

 

典子さんは、呼吸が苦しくなると、「吸う、吐く」が1:2になるくらいの割合でゆっくり呼吸する腹式呼吸を行いました。すると呼吸のリズムがととのい、少し楽になりましたが、めまいや不安感、恐怖感などは、なくなるどころか、かえって強まっていく感じでした。

 

当時の典子さんはまだ独身でしたので、いっしょに暮らしていた母も心配しました。「きちんと医師にみてもらいましょう」という母にともなわれ、総合病院の精神科を受診し、そこでようやく、パニック障害という正しい病名がわかったのです。

 

本格的な薬物療法がはじまり、典子さんの発作は徐々に少なくなっていきました。発作がないときにも軽いめまいや息苦しさがあったのですが、それもやわらいでいきました。

 

しかし、発症からのこの3年間を見ると、すべてが順調だったわけではありません。

 

2年前の結婚前後は、会社勤めをつづけたい典子さんと、やめて家に入ってほしいと思っている義母(夫の母)との間で確執がありました。結局、典子さんは勤めをつづけたのですが、新しい部署で仕事がふえ過労で倒れたこともありました。

 

そして、もっとも辛かったのが、1年前の流産でした。うつ状態におちいり、会袿もやめました。典子さんは、症状が悪化しそうな出来事があるたび、主治医に相談し、薬の調整をしながら乗り越えました。夫の理解が何よりの支えになったことはいうまでもありません。

 

いま典子さんは妊娠中です。今度こそ無事に生まれるようにと、認知行動療法に取り組んでいます。

 

 

アドバイス:適切な診断・治療をしてくれる医師とのつきあいを大切にしましょう

過換気症候群は、一般的には「過呼吸症候群」という名で知られていますが、厳密には、両者は異なるものです。過換気症候群は、精神的に不安なときなどに、呼吸を必要以上に行ってしまうために起こる症状です。

 

一方、過呼吸症候群は、呼吸を多く必要とする運動(短距離走など)を行った場合などに起こります。原因に、「精神的」な要素が関わっているかどうかの違いがあるのです。

 

過換気とは、呼吸が速すぎたり深すぎるため、血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が肺から大量に排出されてしまい、二酸化炭素不足になっている状態です。

 

この過換気による全身の病的な変化が過換気症候群で、「頭がボーッとする」「めまいがする」「手がしびれる」といった状態になり、さらに重くなると、「全身のけいれん」が起こることもあります。

 

一方、パニック障害でも、パニック発作が起こるとしばしば過換気状態になります。血液が二酸化炭素不足になる点は同じですから、症状だけを見るとほとんど区別がつきません。そのため、激しい呼吸症状があらわれている場合、実際はパニック障害なのに、過換気症候群とまちがえることは、専門の医師でもよくあります。

 

 

しかし、パニック障書は、神経伝達物質がアンバランスになる脳の病気です。一方、過換気症候群は心因性の病気で、自己誘発的な場合もあります。それぞれ別の病気なのです。

 

気をつけたいのは、過換気症候群は心因性のため、効果のある薬がない点です。パニック障害なのに過換気症候群と診断されてしまうと、このケースの典子さんのように、治療を受けられないまま時間が過ぎてしまいます。

 

パニック障害は、過換気症候群だけでなく、ほかの病気ともよくまちがえられます。こうした事態を避けるためにも、適切な診断・治療をしてくれる医師との出会いが大切です。そして、その医師に長くみてもらうことが大切です。

 

パニック障害は、どんなによくなったと思えても、完治はむずかしい病気です。典子さんのように、結婚、退職、出産など人生の局面でゆさぶられ、悪化することもあります。

 

そのような場合でも、長いつきあいがあり信頼ができる医師であれば、経過を理解していますので、安心して相談できます。

 


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